リーダーに求められる「抽象化する力」って?思考力を伸ばすFCIの独自授業
こんにちは、FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。
FCIは、サッカー元日本代表監督を務めた岡田武史さんが学園長を務め、2024年4月の開校を目指す愛媛県今治市の私立高校です。
サッカー人材の育成ではなく、これからの世界の歴史を動かす「ヒストリック・キャプテンシップ」を持ったリーダーの育成を目指し、生徒一人ひとりの主体性を引き出すために実学・実践を重視した独自のカリキュラムを提供します。
そんなFCIでは独自の授業の一つとして、「抽象化力養成講座」を用意しています。
普段なかなか聞きなれない言葉ですが、抽象化を辞書で引くと
とあります。でも、これだけでピンと来るという人は少ないかもしれません。
では実際に、この講座を担当してくださる講師の細谷先生に、抽象化力っていったい何なのか?何のために必要なのかを教えてもらいましょう。
FCIのユニークな授業の一つ、抽象化力養成講座
FCIがカリキュラムに組み込んでいる「抽象化力養成講座」は、高校1年次に全員が必ず受講する必修授業です。
この講座を担当してくれるのが、『地頭力を鍛える』の著者でビジネスコンサルタントの 細谷 功先生です。
9月末には細谷先生をFCIにお招きし、一足先に教職員に向けて「具体と抽象」というテーマでワークショップを実施していただきました。
■抽象化は、意外にも日常的に使っている思考法
細谷先生によれば、抽象化というのは「法則を見つけて分類すること」。つまり、複数の具体的な事柄を並べたときに、『共通する要素』ってなんだろう?と考え、それに名前を付けること。
そして分類を高度に操ったり、抽象化したりすることができるのは、人間だけの特別な思考力なんだとか。
この「抽象化」という思考法は、実は日常的に行っているのだそう。そのことを実感するために、ワークショップの中で、細谷先生は先生たちに”ある問題”を投げかけました。
それは、「コンビニに売っているもの、売っていないものをリストにできるだけ多く書き出してください」というもの。
それぞれ30秒後に、「どうやって回答を導いたか」を尋ねると、ある傾向が浮かび上がってきました。
「コンビニに売っているもの」は、実際のコンビニの店内を思い浮かべて、頭の中に棚を想像しながら書き出している人が大多数でした。
その一方で、「コンビニに売っていないもの」は『コンビニに売っていなさそうな大きいもの』や『高価なもの』から連想したパターンや、コンビニ以外のホームセンターやスーパーなどを思い浮かべて、「そこにはあってコンビニにはないもの」をリストアップしたパターンがありました。
この『大きいもの』『高価なもの』『生きもの』などはまさに、抽象化された分類そのもの。
まず大きな概念を思い浮かべた後に「洗濯機」「冷蔵庫」「車」などの具体名をリスト化していったということは、抽象的な思考法と具体的な思考法とを、意識しないままに行ったり来たりしていたということに他なりません。
頭を使う中で、自然に二通りの思考方法を使い分けているということに、演習を通して気付き、先生方もハッとしていました。
■抽象化の発想はよりたくさんの答えを導き出すことができる
同時にこの「抽象化による思考」は、頭を使う分時間がかかりますが、応用が利く考え方だということにも気が付きました。
「コンビニに売ってるもの」で具体的な棚を思い浮かべるとすぐに『ネタ切れ』になってしまいます。
でもそこで売り場のカテゴリーを想像できれば、経験や記憶をうまく引っ張り出すことができます。
細谷先生は、「考えること」は「具体と抽象を行き来すること」だといいます。
「具体的な経験のままだと、1は1にしかなりません。でも、一度分類して抽象化することで、自分の経験を超えた発想ができ、結果的にはより多くの答えを導き出すことができるのです。
ただ、抽象化された考え方は”地に足がついていない”ため、実際の行動や活動に落とし込むことができません。
具体的な体験と抽象的な発想、その両方を行き来することが大事なのです」
FCIが力を入れる体験教育、その学びをより深めるために
FCIでは野外体験教育をはじめ、里山未来創造探究ゼミでのフィールドワークなど、さまざまな体験授業を用意しています。
これら一つひとつの体験を、単に「楽しかった」「疲れた」といった一喜一憂で終わらせず、その後の人生やキャリアへも活かしていくためには、まさに「抽象化する力」がとても大切です。
■具体的な体験から「教訓」を見つける方法
この理解を深めるために、ワークショップの中では実際に先生たちが一つの体験例として、マシュマロチャレンジに挑戦しました。
マシュマロチャレンジとは、パスタとマシュマロ、ひも、テープ等を使って制限時間内にできるだけ高い位置にマシュマロを置くことを競うゲームです。
設計図を描いたり、マシュマロの重さを確かめたりしながら、各チーム思考錯誤しています。
なんと、最終的には60㎝を超える大作を作ったチームもいました(!)
体験の後、細谷先生は「次に同様のワークをするとしたらどう改善するか」という振り返りのお題を出しました。
そしてそこで挙がった内容を、「次の機会にも活かせるかどうか」という観点で、解説を加えていきました。
「例えば、『パスタが思ったよりも弱かったから2本で支える』『マシュマロが重かったから足場をもっと強くする』といった振り返りは、次のワークでパスタの太さやマシュマロの重さが変わった場合、まったく役に立ちません。
また、『予め役割分担をする』『時間配分を考える』という振り返りは一見役に立ちそうですが、果たしてチャレンジ前にどう役割分担するべきか、どう時間を配分するべきか見当がついたでしょうか?」
細谷先生の指摘に、先生たちも「確かに」と呟きます。
こうした「具体→具体」の改善点は、次に条件が変わると応用が利きません。でも実際は、改善点を洗い出すときにそうした点にまで意識を向けることは少ないかもしれません。
別の場面でもきちんと役に立つものにするためには、「具体→抽象」の視点が欠かせないといいます。その上で細谷先生は一つ改善点の例を提示してくれました。
「例えば今回のチャレンジは、きっと皆さん『一回やってみないと、何が分からないかも分からなかった』と思います。これは次、マシュマロやパスタの条件が変わっても、応用できる一つの教訓です。」
個別の体験だけにとらわれるのではなく、考え方のレベルを一段階あげることで広い視野で物事を見ることができ、柔軟な発想や機転の利いた考え方ができるようになります。
個々の体験に終始するのではなく、こうした意識をもって取り組みを振り返り、そして次に活かすことが重要です。
■抽象化する力が身につくと、勉強が楽しくなる!
細谷先生は、これからの社会には特に「抽象化する力」がとても大切だといいます。
「マシュマロチャレンジの例からもわかるように、具体的な体験を通じた学び方は、さまざまな物事の「教訓」を得るためにはとても有効です。
ただ、具体的な体験だけを繰り返しても、個別の情報や知識が増える一方で、体験同士の法則を見つけることには繋がっていきません。
そして知識を習得するだけだと、これからの社会ではChatGTPに勝ち得ません。人間にしかできない「考える」という力、つまり具体と抽象を行き来しながら、知識や経験を応用していく力を身に着けていくことが大切です。」
また細谷先生はこんなお話もしてくれました。
「入試やテストの前に過去問を解くのって、どうしてでしょうか?去年と同じ問題は絶対に出ませんよね。つまり、一番出ない問題をみんな必死で解いているわけです。でもそれは『傾向と対策』をしたいからですよね。これもまさに抽象化しているといえます。
テスト全体の構成や範囲、形式、配分にどんな傾向があるのか。一つひとつの問題という狭い視野ではなく、抽象化という意識を持っていれば、もっと大きな示唆を得られるわけです。」
抽象化思考があれば勉強が楽しく、意味のあるものになるともいいます。
「例えば現代文で、『作者が言いたいことは何ですか』というのは、まさに抽象化する力を求められているわけです。
歴史の授業で年号を覚えることは本質的ではありません。例えば権力者が死ぬと動乱が起きるなど、これまでの大きな流れのなかで世の中がどう変わってきたかという教訓にこそ、意味があるわけです。
知識を答える穴埋め問題は、これからはAIがやってくれるようになるでしょう。WHY、HOWで問われるような問題こそ、人間がこれから考えていくべき問いなのです。」
FCIでは「抽象化力養成講座」の実施はもちろんですが、通常の授業でも「具体と抽象」のエッセンスを採り入れていきます。
個別の授業、体験、出来事を通して、学んだことはつまり何だったのか、何の意味があったのか、何のためにやったのか、次にどういう教訓を残したのかを、問いかけながら共に考えていきます。
取り組みの本質を捉え、共通点を見つけ出して語れること。広い視野を持ち、解決法を導き出せることは、ヒストリック・キャプテンに求められる資質の一つです。
まずはやってみる。そしてそこから教訓を導き出して、改善しながら次のチャレンジをまたやってみる。
この先の「正解の分からない時代」を自分たちで考え、未来を創っていくために、一緒に「抽象化する力」を鍛えていきましょう!
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