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マーメイドジャパンからパフォーマーへ。挑戦、挫折を経て自分らしい評価軸を見つけた今、10代の若者に伝えたいこと【講師インタビュー:杉山美紗さん】

こんにちは、FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。

FCIでは「自ら動き、考え、違いを受け入れ、仲間と共に社会を変える」をスローガンに掲げ、サッカー人材の育成ではなく、これからの世界の歴史を動かす「ヒストリック・キャプテンシップ」を持ったリーダーの育成を目指しています。まずはやってみてそこから学ぶ「エラー&ラーン」をモットーに、実学・実践を重視したカリキュラムを展開することで、生徒一人ひとりの主体性を引き出します。

なかでも力を入れる授業のひとつが、スポーツ(保健体育)です。スポーツといっても実技だけではなく、一つの道を本気で究めたからこそ鍛えられる強いマインドも、学ぶべき大切な要素です。

彼ら彼女らの熱量や想いに直に触れることは、生徒自身にとっても大きな刺激となり、自分の生き方や考え方を見つめ直したり、大切なことに気づくきっかけになるはず

そんな思いから、FCIではスポーツの授業の中でトップアスリートと対話によって学びあう「実学」の時間を月に1度設けています。

今回の記事では、スポーツの特別講師に就任した元アーティスティックスイマーでパフォーマーの杉山美紗さんに、ご自身の経験そして未来のFCI生に伝えたいことについて伺いました。

杉山 美紗(すぎやま・みさ)さん
元アーティスティックスイマー。日本代表選手として多くの大会に出場し、mermaid JAPAN.としても活躍。その後、渡米し世界最高峰のエンターテイメント集団『シルク・ドゥ・ソレイユ』へ2015年に入団。7年間の活躍の後、2022年に卒業。現在は国内に拠点を移し、新たな表現の道を追求している。

ーアーティスティックスイマー、そしてその後は『シルク・ドゥ・ソレイユ』のパフォーマーとして活躍されてきた杉山さん。競技には学生時代から取り組まれてきましたが、これまでどのような道のりを歩まれてきましたか?

アーティスティックスイミングに出会ったのは8歳の頃です。先にクラブに入っていた姉の存在がきっかけで、気が付いたら私も参加していました。
その後、小学校5年生の時にオリンピック強化選手に選ばれてから、2015年に『シルク・ドゥ・ソレイユ』に入団するまで、長らくアーティスティックスイミング一色の生活を送っていました。

アーティスティックスイマーとして世界に挑戦してきた私ですが、実は元々スイミングは苦手。周りの子たちとの差を感じて落ち込むこともしばしばでしたし、挫折もたくさん経験してきました。

アーティスティックスイミングはスポーツなので、勝ち負けがあります。いくら一生懸命やっていたとしても採点という形で評価され、優劣が付けられてしまう。そうした「他人からの評価」や「どう見られているのか」という意識にとらわれて苦しんだ時期もありました。

アーティスティックスイミングに打ち込んだ学生時代

ースポーツにはつきものの「勝ち負け」ですが、それゆえの悩みもあったんですね。

今思えば採点というのはあくまで評価の一つの軸でしかないと理解できますが、まだ幼かった当時の私はそれが世界のすべてのように思えていたんです。経験を積んで徐々に視野が広がり、「他人の評価に振り回されていることへの違和感」を抱くようになってからは、なおさら葛藤の日々が続きました。

20歳を迎えた2010年にはワールドカップに出場しましたが、膨らむ違和感とケガの影響も相まって2012年に行われたロンドンオリンピックの選考会には落選。翌年は世界選手権に出場しましたが、リオオリンピックを目指すチームメイトの中で、私自身の迷いは強くなっていきました。

マーメイドジャパンの一員として貢献してきた杉山さん

人の目を気にしてばかりの自分が、自分の意志で本当にやりたいと思えることってなんだろう。

そう思っていた矢先に、ずっと憧れていた『シルク・ドゥ・ソレイユ』に、アーティスティックスイマーとして立てる道があることを知りました。
それまで競技一筋で取り組んできた私でしたが、その目標をおしてでも「これがやりたい!」と心の底から思えたんです。

『シルク・ドゥ・ソレイユ』との出会いは少しさかのぼって14歳の時です。初めて観た時、衝撃を受けたことを今でもよく覚えています。観るものすべてを魅了し、感動を巻き起こす「表現」の自由さとそのクオリティに引き込まれ、以来ずっと憧れていました。

『シルク・ドゥ・ソレイユ』への道があると知ったとき、「採点という基準ではなく、純粋に表現して観客に喜んでもらいたい」という自分自身の本当の気持ちに気づき、原点に立ち返れたような気がします。

選手としての「オリンピック出場」という目標も、もちろん嘘偽りない自分自身の気持ちでした。でも本心でやりたかったという以上に、周囲の期待に応えたいという気持ちも大きいものだったことに気が付いたんです。『シルク・ドゥ・ソレイユ』へのチャレンジは、周りにどう言われようと絶対に叶えたい、紛れもなく私自身の「夢」でした。

活躍の一方で葛藤も抱えていた

ーオリンピックの夢から、自分がやりたい表現の道へ。大きな決断ですが、そこに迷いはなかったんでしょうか?

シンプルに、自分の心が何を求めているのかを考えたときに「これしかない」という確信がありました。

その後、「シルク・ドゥ・ソレイユ」の入団にあたって渡米するんですが、当時、英語はほとんど喋れなかったんです。それを言うとよく「勇気があるね」といわれるんですが、本当にやりたいことがアメリカにしかなかったから「行くしかなかった」。そのくらい、自分の心は決まっていましたね。

ー『シルク・ドゥ・ソレイユ』では7年間パフォーマーとして演じ、思いを叶えた杉山さんですが、夢を叶えるために心がけてきたことはありますか?

私は「縁」と「運」に恵まれてここまでやってこられたと思っているんですが、中西哲生さんとラジオで共演した際に「きちんと自己分析して言語化するべき」とアドバイスを受け、これまでの人生を振り返ってみたんです。

そこで気が付いたのは、自分自身の持つ「ベクトルの強さ」でした。それはアーティスティックスイミングに取り組んでいた頃から今に至るまで、変わっていないなと気づいたんです。

当時、スイミングクラブの恩師とはかなりバチバチにやり合っていて(笑)先生からすると厄介な選手だったと思いますが、自分の意志を持って意見を伝え、譲れないことについては先生相手にも曲げませんでした。本気でぶつかるから先生も本気で向き合ってくれたし、たとえ理解できないことがあったとしても「解らないけれど、解りたいとは思っている」という意思を明確に伝えることで、強い信頼関係を築いてきました

アメリカに渡るとより自分の意志を言葉にして伝えることの重要性を実感しましたね。自分の気持ちを相手に伝えることは、海外では信頼を築くための最低条件。そんな環境の中で7年間過ごすことができたというのは、今に繋がる自信にもなりました。 

表現の道へ進むことを決意

ーそうした「意志の強さ」はどのように培われたのでしょうか?

持って生まれた性格もありますが、やはり身をもっていろんな経験を積んできたからこそ得ることができた部分も大きいと思います。

トライして、壁にぶつかって、自分と対話するなかで自分の本当の気持ちを見つめる。まだまだ模索しながらですけど、その繰り返しです。

FCIでも大切にしている「エラー&ラーン」。まずやってみて、そして考えて、自分の気持ちと向き合ってみる。その循環で、自分の揺るぎない思いや芯が育っていくと思いますし、高校生のうちからエラーできる環境の中でいろんな経験が詰めることは本当にうらやましいと思います。

私も競技や表現を通してエラーしながら経験を積んできたからこそ、実感値を伴う学びや失敗談があります。

アーティスティックスイマーとしての試行錯誤の日々が今に繋がっている

これだけ情報がたくさん溢れている社会なので、わからないことや知りたいことがあっても、大抵のことは調べれば出てきます。ただ、説得力や人の心を動かす力を持っているのは、うわべだけの情報ではない、自分の体を通ったリアルな経験談や言葉だと思うんです。

これからの時代、「やってみること」の重要性はもっと大きくなっていくんじゃないかなと思いますね。

ー最後に、杉山さんが10代の学生たちに伝えたいことは何でしょうか?

自分だけの光るものを、ぜひ大事にしてもらいたいです。

私は競技者からパフォーマーの世界に転向したことで評価の軸は一つじゃないことを知り、「表現」の可能性に気が付きました。例えばアーティスティックスイミングだと見栄えがするので背が高い選手が重宝されますが、『シルク・ドゥ・ソレイユ』のような表現の舞台ではそれぞれの個性にあった役があり、自分らしさを生かした表現ができるんです。

これは「生き方」にも共有すると思っています。きっと自分らしさが発揮できる舞台ってどこかにあると思うんです。その舞台がどこなのかを知るため、そして自分らしい個性を理解して磨くためにも、ぜひいろんなことにチャレンジしてほしいなと思います。

私自身もまだまだチャレンジの途中です。「やってみたけどこれは失敗だった」「じゃあ、こうしたらどうだろう」そんな学びあいを、皆さんとできる日が、今からとても待ち遠しいです。


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