「得意なことに集中した方が生産性ってバカ高くなる」海外への挑戦を経て意識するようになった、最強のチーム作り【講師インタビュー:パラアスリート上原大祐さん】
こんにちは、FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。
FCIでは「自ら動き、考え、違いを受け入れ、仲間と共に社会を変える」をスローガンに掲げ、「未来を生き抜く力」を持った新時代のキャプテンの育成を目指しています。
なかでも力を入れる授業のひとつが、スポーツ(保健体育)です。スポーツといっても実技だけではなく、一つの道を本気で究めたからこそ鍛えられる強いマインドも、学ぶべき大切な要素です。
彼ら彼女らの熱量や想いに直に触れることは、生徒自身にとっても大きな刺激となり、自分の生き方や考え方を見つめ直したり、大切なことに気づくきっかけになるはず。
そんな思いから、FCIではスポーツの授業の中でトップアスリートと対話によって学びあう時間を月に1度設けています。
今回の記事では、スポーツの特別講師に就任した日本代表パラアイスホッケープレーヤーの上原 大祐さんに、ご自身の経験そして未来のFCI生に伝えたいことについて語ってもらいました。
パラスポーツは誰もが楽しめるスポーツ
ーはじめに、上原さんが今取り組んでいることについて教えてください。
私は今、2014年に立ち上げた認定NPO法人D-SHiPS32(ディーシップスミニ)で、自分たちが感じた課題を次世代に残さないために、様々な活動に取り組んでいます。
元々、パラアイスホッケーという競技に取り組む中で、「健常者も障害者も一緒にスポーツを楽しめる環境を作りたい」という思いがありました。
日本では「パラスポーツ」というのは「障害者のためのスポーツ」という位置づけですが、海外では必ずしもそうではありません。
アメリカだと健常者が車椅子バスケットボールやパラアイスホッケーの選手になったりもしています。
パラスポーツは障害者の人にしか出来ないスポーツではなくて、障害者の人でも楽しめるスポーツ、つまり誰もが楽しめるスポーツなんです。
2012年にアメリカのフィラデルフィアのチームに1年間所属したんですが、そこで改めてそうした考え方の違いを目の当たりにしたことが、NPO立ち上げの後押しになりました。
ーアメリカと日本では随分障害者やパラスポーツへの考え方が違うんですね。
そうなんです。NPOではすべての子どもたちが夢を持って挑戦できる世の中をつくるために、障害者の身の回りの課題をテーマに、いろんなプロジェクトに取り組んでいます。
例えば、車いすユーザーって着物を着たくてもなかなかハードルが高いんですね。時間もかかるし、トイレに行くために脱ぎ着するのも大変。座りっぱなしだから、せっかくの着物がクシャクシャにもなっちゃう。でも、私だって着物好きだし、着たいわけです。
だったら、車いすユーザーでも着れる着物を作っちゃおうと考え始めました。
この着物、上下セパレートになってるんですけど、着るのに1分もかからないんですよ。Tシャツのように羽織って、ズボンのように履いて、ベルトの帯を付けるだけなんです。
チェンジにはチャレンジが必要
ーアイディアが光っていますね。諦めてしまうのではなくて、課題をどう乗り越えるかというチャレンジ精神を感じます。
うちの鈴子が、あ、母なんですけどね、私がやりたいと言ったことを「それは無理だよ」と諦めるのではなくて、どうしたらできるかというのを常に考える人だったんですね。
私は足が不自由なわけですが、自転車に乗りたいって言った時にも「乗れそうな自転車があるかもしれないから探すね」と。
「それはできない」「あれはできない」って言われると、やる気なくなっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて「やっていいよ」「どうやったらできるかな」を常に考えてくれていたので、どんどんチャレンジしていく意識を持てたんだと思います。
私は、チャンス・チャレンジ・チョイス・チェンジ、この4つのCが大事だと思っているんです。チェンジさせようと思ったらチャレンジしないと何も変わっていかないんですね。
障害を持ってると「それは足が悪いからできないんだよ」とか「目が見えないんだからできないんだよ 」とか言って、チャレンジするチャンスをめちゃくちゃ削がれているんですよ。でもこれは、障害のない健常者でも同じかもしれません。理由を付けてできないと言ったり、親が先回りしてチャンスを潰してしまったり。
でも周囲も本人も「できない」と決めつけずに、いろいろやってみることがすごく大事だと思うんです。
ー「やってみよう」という気持ち、そしてそれを後押しできる環境はすごく大切ですね。
私はアイスホッケー選手ですが、この競技に出会ったことも、チャレンジがあったからでした。私は元々音楽の先生を目指していて、ピアノやトランペット、ギターに熱中していました。でもある時、私に車椅子を売ってくれている社長から「お前ほど車椅子壊すやつはいない。そのやんちゃぶりがホッケーに向いてるから来い」って言われて、やってみたらピンと来たんです。
それまで自分の中では「自分はスポーツには向いていないかも」と思っていたんです。一度やってみた車椅子バスケがあまり上手くできず、スポーツは苦手なんだと思い込んでいたんですね。
でもバスケができなかったからスポーツ全部ができないってことじゃないし、例えばトランペットができなかったら音楽が全部できないってことでもない。
一つやって諦めたり、向いてないって思いこんだりしてしまうことは多いですけど、そんな風に決めつけずにいろんなことにチャレンジすることは大切だなと、身をもって感じますね。
多様なメンバーが混ざることで生まれるものがある
実は先ほど紹介した着物は、車いすユーザーだけでなくていろんなところで役に立ってるんです。
例えばインバウンドの人たち。着物が好きだけど着付けがわからないという外国人観光客の方が買って帰れる着物になってるんですよ。
他にも、車椅子や足腰が悪くて上手に着物が着れないっていうおじいちゃんおばあちゃんに、冠婚葬祭のシーンで着ていただいたりもしています。
あとはホテルや料亭のスタッフの方。ホテル側は着付け手当を支払ったりしているんですが、早く着付けが終わればその分の経費が浮くんですよ。
僕たち、車いすユーザーにとっての課題を解決するものだけど、実はその課題が解決されると助かる人は他にもたくさんいるわけですよね。
世の中ってそういうものだと思っていて、いろんな人がいて、健常者だけだと生まれない商品がみんなが混ざると生まれるものがある。
日本人は横並びじゃないといけない、隣の人と同じじゃないといけないと思いがちですけど、同じだと生まれないものがあるから、むしろ同じじゃない方がいいと思うんです。
ーいろんな人の多様な視点が混じることで見つかる課題や、解決策があるんですね。
アメリカ留学に行った時に面白いなと思ったのは、チームのつくり方が日本とは全然違うんです。
日本だとある程度ベーススキルが高い人たちでジェネラリストを集めたジェネラルチームを作りたがるんです。それに対してアメリカは、スペシャリストを集めてジェネラルチームを作るんですよ。
ドリブルが上手いやつが、パスの上手いやつに渡す。パスの上手いやつがシュートの上手いやつにピンポイントでゴール前に出すと点が決まる。
それぞれのメンバーにスペシャルがちゃんとあるから、チームとして成り立って、ジェネラルなチームになっているんです。
ーおもしろいです。個々の強みを活かしたチームになっているんですね。
そんなスペシャリスト集団がチームワークを発揮するために重要だと感じたのは、お互いにスペシャルを認め合えていること。お互いが何に長けていて、どういう風に動くか分かっているので、お互いが力を発揮できる。もちろん各自が自分の強みを理解して、チームに貢献するんだよね。
逆に言うと「ここはちょっと弱いから誰かに頼ろう」という意識もすごくあるんです。自分は自分の得意なことに集中した方が生産性ってバカ高くなる。
『頼ることはダメなこと』『一人でできないと一人前ではない』といった思考だと、大きなことを成し遂げることはできないと思うんです。
そしてスペシャリストたちはみんな、自分の意見を必ず言うんです。ちょっとでも気づいたことがあったら、すぐにそれを発言する。だから練習中にめちゃくちゃ喧嘩するんですよ。怒って出てっちゃうやつもいるし、監督に「出ていけ」っていう選手もいる。
ーそれでチームが成り立つことに驚きです。日本だと「空気を読む」という言葉があるように、どうにかなだめようとする雰囲気になりそうです。
アメリカだと自分の意見を伝えること、対話することは、信頼関係を作っていくためには不可欠です。学校も手を挙げて発言しないと出席ではないとみなされたりもするくらい。
氷の上だとお互いがホッケーに対してスペシャリストだから、それぞれがプライドを持ってスペシャリストの会話をするのが当たり前のこと。でも氷から降りたら良きチームメイトであり、一人の人間同士なので、引きずらないんです。
誰かの発言に対して「確かに」って、実はみんなも思ってたパターンってよくあるじゃないですか。これって声に出して共有するからこそ生まれる会話なんですよね。
日本と比べて厳しさもありますが、だからこそそれぞれが強みを伸ばし高め合って、自分らしい道で「スペシャリスト」になれるんです。
ー上原さんはそんなスペシャリストのチームの中で、どんな役割を担っていたんですか?
私は体が小さいので、「頭8割、体2割」でやってきました。日々、論理的に「この角度で滑るとどうなるからもうちょっと角度をこうしなくちゃ勝てないよね 」とか淡々と研究してましたね。
体がちっちゃいからアイデアを出し出さなくちゃいけないし、パワープレーは信頼できる仲間を頼らないといけないんですよ。
ちなみにD-SHiPS 32の「32=ミニ」は私のあだ名です。世界一小さいプレイヤーとして、背番号32番のミニをずっとつけてたんです。
ー自分の強みをチームで活かして貢献されてきたんですね。今、得意のアイディアを武器に、強みを持ったメンバーと課題解決に取り組んでいることに繋がっているなと感じました。
「友達ゴト化」で課題を見つめてみる
ーFCIでは主体性と多様性をとても大切にしていますが、社会にいる多様な人たちと手を組んで大きな物事の解決を目指すために、どんなことを心掛けるとよいでしょうか。
よく、「課題を自分ゴト化して考える」って言いますけど、それってめちゃくちゃ難しいんですよね。
だって皆さんに「車いすの人の気持ちになって考えてみて」って言っても、「いや、歩けるしな」ってなっちゃうと思うし、逆に私だって「歩けないしな」ってなっちゃう。
そんなときには「友達ゴト化」して考えるといいんじゃないかなって思ってます。
我々がエレベーターに並んでいるときに、走って追い抜いて乗る人たちがいるんですよね。「われ先モンスター 」って呼んでるんですけど(笑)
でもそれを私の友達が目の当たりにすると「うわ、ひどいな。俺は、ああはならない」って言ってくれるんです。
自分ゴト化するのは難しくても、私のような車いすユーザーが友達にいたら、「だいちゃん(上原さん)のためだったら、どうしたらいいかな」ってきっと考えられると思うんです。
「だいちゃんが車いすでも行きやすいお店はどこかな」と考え始めると、日常生活の中でも少しの段差に意識が向くようになったりするんですよね。
だから自分とは違う部分を持っている、いろんな仲間たちとぜひたくさん出会って友達になってもらいたいですね。
ー最後に、未来のFCI生へメッセージがあればお願いします。
私は「経験値」は「経験地」からだと思っているんです。
そこの「地」を経験するから見れること、聞けること、触れること、感じれること。そんなリアルな体験があるからこそ、自分の「値」になるんです。その場にとどまっていたって、経験値は身につかないんですよ。
RPGで一番初めの村にずっといて、スライムだけ倒してても全然経験値は上がらない。次の村に行って、次の街に行ってってやってくから、どんどんどんどん敵が変わっていたりとかして、うちのレベルが上がっていくから装備が増えていくわけですよね。
どんどん「地」を経験して「値」を増やしていくと、更なるビッグなチャレンジができると思っているので、「経験地」がたくさん踏めるFCIでどんどんレベルアップしてほしいなと思います。
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