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授業でお遍路さん四国一周?FC今治高校が野外体験教育に力を入れるワケ

こんにちは、FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。

FCIは、サッカー元日本代表監督を務めた岡田武史さんが学園長を務め、2024年4月の開校を目指す愛媛県今治市の私立高校です。

サッカー人材の育成ではなく、これからの世界の歴史を動かす「ヒストリック・キャプテンシップ」を持ったリーダーの育成を目指し、生徒一人ひとりの主体性を引き出すために実学・実践を重視

午前は一般教科の授業、午後には学校を飛び出して地域や自然の中でのフィールドワークを中心とした活動に取り組みます。

今回の記事では、そんなユニークなカリキュラムの柱でもある独自授業「ヒューマンディベロップメントプログラム」について、一体何をするのか?何のためにやるのか?気になるポイントを解説します。

毎週3時間、必修授業の野外活動と環境教育

「ヒューマンディベロップメントプログラム」
地球に生きるものとしてのスキルセットである野外体験教育と、マインドセットとしての環境教育を必修授業として実施。心身のタフネスを身に着け、これからの未来を創るために必要不可欠な地球環境や持続可能性への理解力・考察力を養う。

FCIでは1年生から3年生までの全校生徒を対象に、週に3時間の必修授業として「ヒューマンディベロップメントプログラム」を開講します。

このプログラムは大きく二つの体験で構成されていて、一つが「野外体験教育」、もう一つが「環境教育」です。これらを半期ずつ交互に受講しながら、身体知を伴う学びを吸収します。

FCIでは、この「ヒューマンディベロップメントプログラム」をカリキュラムの核に位置付けています。それはなぜなのか?をお伝えする前に、まずは実際に何をやるのかをそれぞれ詳しくお話しさせてください。

野外体験教育:お遍路さんが授業に!?

入学して初めに取り組むのが、野外体験教育「四国お遍路チャレンジウォーク」です。
この授業のルールはたった一つ。FCIの校門を出発して、1400㎞の旅路を行きながら四国八十八カ所を巡ったのちに、いつの日かまたFCIの校門に到着すること。これを、1期生から3期生までがタスキを繋ぐようにリレーしながら、3か年かけて八十八カ所制覇を目指します。

©FC. IMABARI

何キロ歩くのか、2期生にどこでタスキを渡すのか、そこも含めて生徒みんなで設計する中長期プロジェクトです。

長い旅の途中でいろいろな人に出会い、道行く人に励まされ、飲み水が底を尽きたら地域の人を頼ったり。体力がある人もない人も、さまざまなメンバーがいる中でどうやったら共にゴールにたどり着けるか。ハプニングやアクシデントも、みんなで相談し乗り越えなければいけません。

授業の狙いは、自分自身に向き合い、他人と関わり、「やればできる」という達成感を得て、心身のタフネスを獲得すること。

ひたすら歩く道中には、きっと「嫌だな」「疲れたな」と思うシーンも出てきます。ただそれも越えると、脳みそから日々のタスクや雑念が消え、自分自身に向き合い始めます。

時には険しい遍路道

お遍路文化は、自分を振り返り、今の自分を乗り越えるための課題を見つける機会です。そしてその姿を気にかけてくれる地域の人たちの存在によって、時に交流が生まれ、時に地域の文化や営みを知れるフィールドワークの機会でもあります。

また、「応援されることで元気をもらい、応援することで勇気をもらう」つまり元気と勇気の交換の場でもあります。出会いを通じて励まし、励まされながら、もう一歩前に進んでいく。そんな経験を通じて「動けば変わる」「やればできる」ことを実感しながら、たくましさが鍛えられていくはずです。

一つ誤解しないでほしいのは、「体が強くて体力がある人」だけに向けたプログラムではないということ。さまざまな属性・タイプ・性格・能力の多様なメンバーが関わり合いながら、一つのゴールに向かって取り組むことが、これからの社会に必要な共創力を育みます。自信のない人も安心してください。どうやって目標達成に近づくか、チームみんなで一緒に考えましょう。

また二年次には、四国を飛び出して雪国を舞台に取り組む野外体験を計画しています。こちらも、ぜひ楽しみにしていてください。

■講師はしまなみ野外学校の「がってんさん」

野外体験教育をサポートしてくれるのは、しまなみ野外学校の木名瀬 裕(きなせ・ひろし)さん、通称「がってんさん」。

オープンキャンパスで野外体験教育の説明をするがってんさん

木名瀬 裕(きなせ・ひろし)
1989年より野外教育現場での活動を開始。1996年に「VOICE OF WIND」を設立し、主にカヌーガイドとして活躍。2008年には、DENSO YOUTH for EARTH Actionの北海道野外活動部門を担当。2011年に岡田武史による環境教育のための法人「OKADA INSTITUTE JAPAN」の活動に参画。2017年に株式会社今治.夢スポーツの推進する「しまなみ野外学校」に参画し現在に至る。
文部科学省小学校長期自然体験活動指導者/上級救命講習修了/北海道アウトドア資格審査員/一般社団法人OPEN JAPAN前副代表/北海道知事認定カヌーマスターガイド/北海道アウトドアテキスト編集委員

しまなみ野外学校とは、サッカークラブ「FC今治」を運営する株式会社今治.夢スポーツ(代表取締役会長:岡田武史)が手掛ける野外教育事業。海や川、森や里の文化を知って体験することで、生きる力を育み、地球環境や自然への関心を持ってもらうことを目的に、2016年から活動しています。

©FC. IMABARI

しまなみ野外学校では、仲間と力を合わせて困難を乗り越えた時の感動を味わってほしい、若者たちの「遺伝子にスイッチを入れる」チャンスを与えたい。そんな思いから、これまでも子どもたちの野外体験プログラムや企業の研修など、幅広い世代、ニーズに対して体験を提供してきました。

■しまなみ野外学校の取り組み:5泊6日瀬戸内アドベンチャーウォーク130km

「四国お遍路チャレンジウォーク」とも非常に関連の強いプログラムを一つ紹介させてください。

しまなみ野外学校が今年8月にFC今治U-13の選手19名を対象に実施した、130㎞の道のりを歩くプログラム「5泊6日瀬戸内アドベンチャーウォーク130㎞」。

目的地は、広島平和記念公園。出発地は今治市のしまなみアースランド。片道130㎞を、自分たちで考え、支え合いながら、5泊6日での到着を目指します。

©FC. IMABARI

参加者は3班に分かれてまずは旅の準備に取り掛かります。大人はあくまでも「見守り役」。ルート、スケジュール、テントの張り方、料理の仕方まで、すべては自分たちでやらなければ誰も代わってはくれません

水ってどのくらいいる?1時間でどのくらい進む?何とかなるんじゃない?

真剣に取り組みつつも、旅に出るまでどこか実感がわかない様子の子どもたち。そんなこんなで出発の日を迎えました。

©FC. IMABARI

いざ出発すると、子どもたちから出てくるのは「無理」「しんどい」といった声。普段とまるで違う環境そして体験に、弱音が飛び出します

そんななかでも、進むしかありません。暑い中、道を調べ、自分たちで道を選び、手探りでもテントを建て、包丁を握ります。

夜には一日を振り返り、地図を広げて明日の行程を確認。互いに感じたことや考えたことを共有しながら細かな修正を繰り返します。

©FC. IMABARI

出発した当初は遠慮がちで、うまく互いに意見を言い合うことができなかったそれぞれのチーム。しかし共に困難に立ち向かう中で、自分たちが立てた目標をどうやってクリアするかを他人任せでなく自分自身が考えたり相手を気遣う視野が広がったりと、成長がみられるようになりました

途中で判断を迫られる、そんな瞬間にもたくさん出くわしました。例えば、2日目に組み込まれていた乗船予定。出発時間に余裕をもって到着したのは1班のみでした。船は出港時間が決まっています。事前の約束は「1班でも間に合わなければ、全ての班、船には乗らない。空き地を探して野宿

そんな中で唯一到着した班は、がってんさんから「先に船に乗るか、待って共に野宿するか」の決断を迫られました。

©FC. IMABARI

野宿となった場合、翌日以降の行程は大きく変わります。ただ、船に乗るということは他チームを見捨てるということでもあります。子どもたちは暑い、辛い、ゴールが見えないなかで、真剣に壁に向き合い、互いの意見を確認し合いました

長い人生では時には辛い決断も強いられます。そんな場面に直面した時、どう互いに意見を伝えあい、受け入れ合い、そして先に進むのか
野外体験活動を通して、社会を生き抜くうえで大切な主体性・多様性・そして思考力を、訓練していきます

この旅が実際にどのような結末を迎えたのかは、ぜひこちらのyoutubeチャンネルからご覧ください。

■野外体験がみんなの遺伝子に、スイッチを入れる

FCIでは、しまなみ野外学校でも実践してきた、野外体験を通じて「遺伝子にスイッチを入れる」体験を大切にしていきます。

自然の中で自分の体と五感をフルに活用することで、人間が本来持っている野生の原始的な感覚や底力を呼び覚まし、自然に対する畏怖の念を持ち、先の見えない不確実な時代を生き抜くための真のタフネスを手に入れてほしい。

時に厳しい自然の中で、仲間とコミュニケーションをとり、自分の意見をさらし合いながら、自分自身の決断・選択を自信をもって下す経験を積んでほしい。

そんな思いで、プログラムを創っていきます。

がってんさん
「自然の中での活動は時には優しく迎え入れてくれ、時に厳しい場面に出くわすことでしょう。自己の成長を手助けしてくれる仲間の存在に励まされ、気付かされ、愛されて、皆さんは自分の中に眠る無限の可能性と言う種を開花させてください。

最高の仲間と最高の経験の舞台でもある海や島が、自然から遠く離れてしまった人の暮らしと心を、自然のもとに戻し、命のつながりの中に生きる喜びを共に感じましょう。

そして共に未来を想像し、自然界の子供らしい一面を自由に出せるように、私たちスタッフは皆さんを陰ながら支え、”生きる”ことに向き合いながら”本当の豊かさとは何か”を体感できるように見守り、共に育みたいと思っています。」

しまなみ野外学校のスタッフの皆さん

環境教育:未来を創るグリーン・イノベーターへの挑戦

環境教育は、岡田学園長が顧問を務める一般社団法人Green Innovation(グリーンイノベーション)と連携して学んでいきます。

グリーンイノベーションは、業界や職種を越えた優秀で熱意ある人たちが手を取りあって、2050年という未来を創るために活動している環境団体です。

活動の一環として、「グリーン・イノベーター」の育成を目指した半年間のアカデミーを開講しています。

イノベーターとは、社会のこと、地球のこと、世界のこと、日本のことを考え、ほかの人を思い、自ら変えていくんだ、と未来をつくっていく人のこと。

このアカデミーは大学生を対象にしたものですが、FCIでは特別に高校の授業として連携を組み、未来へ向けた思考やアクションに取り組んでいきます

環境教育講座の全体像

1年次にはまず、世界規模での環境トレンドを学びながら、実際に地域の現場に足を運び、脱炭素への取り組みを推進しているリーダーたちとの対話を通じて学びを深めます。

そして2年生になったら、これからの社会を創造していくために、自分が何をどう実践していくかをグループでディスカッションしながら考えます。

これは、岡田学園長が唱える「守破離」の考え方に沿うもの。まずは座学で環境問題を取り巻く状況や解決への取り組みといった「型」を知り、その後、自分たちならどうするかという視点で型を「破り」、「離れて」いく。

この過程を通して、自分自身が興味があることや向き合うべき課題を発見し、他人任せではなく自分や地域を主語にしながら取り組む下地を作っていきます。

まずは学んで、フィールドワークで実際に見に行って、アクションする。この流れを繰り返すことで、未来志向での思考力を養っていきます。

環境に良い地域を作るために、今治市では何ができるだろう。
環境の良い行動を起こすために、どのような校則がいいのかな。

そんな風に、自分たちに紐づくことで、今できることを考え、実践していきます。

FCIが野外体験や環境教育を大事にする理由とは?

FCIがこうした体験を大切にする背景には、岡田武史 学園長の強い想いがあります。

岡田学園長は、学生時代に『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』(ドネラ・H・メドウズ著、ダイヤモンド社)という本を読んだことをきっかけに、環境問題へ関心と危機感を抱きました。この報告書は、このまま人口増加や環境汚染が続けば、資源の枯渇や環境の悪化によって、人類の成長が限界に達することを提言したものです。

「このままでは地球が持たない」「そして急速に変化する地球に、現代の『安心・安全・便利』に慣れた人間は適応できない」

そう感じて以降、スポーツを通じた地域づくりの傍らで、環境NPOに参画したり、環境サミットに参加したりしながら、40年以上も環境活動を続けてきました。

今治市のしまなみアースランドでは「今治自然塾」を展開する

活動のモチベーションになっているのは、「子どもたちに何かしてやらなければならない」という想いです。

環境問題が深刻になる中、自分たちは何もしなくてよいのだろうか?私たちの時代は大丈夫だからと言って何もせず、次世代の子どもたちに借金を負わせてもいいのだろうか

そんな想いから、2011年の震災後には一般社団法人「Okada Institute Japan」を立ち上げ、自然体験学習、スポーツ、環境教育を組み合わせた教育プログラムづくりと実践をスタート。

そしてその後、今治でも「今治自然塾」と「しまなみ野外学校」を開講し、長年にわたって活動を継続してきました。

「地球は子孫から借りているもの」
岡田学園長はこういいます。

岡田武史 学園長

「われわれ人間には氷河期や飢餓期越えてきたご先祖様がいて、強い遺伝子をみんな持ってんだけど、こんな便利・快適・安全な社会にいたら遺伝子にスイッチが入らないんですよ。

ひとつの公園でケガ人が出たら、全員が使えなくなる。こんなに守られてていたら、若い人が強くたくましくなるチャンスもないわけです

「守られた」環境から飛び出し、人間が絶対に勝ち得ない「自然」に触れることで、子どもたち自身が強さとは何か、本当の豊かさとは何かを考える機会をつくりたいと思いました。

生成AIの登場など、さまざまな技術がめまぐるしい発展を遂げています。すぐにロールモデルがいない社会が来ます。僕は40年間、環境問題に取り組んでますけども、閾値を超えた感覚がある。もう元へは戻れない。4月に種を蒔いて、ここで水抜きしたらこう、って過去の経験が通用しない。やってみなきゃ、わかんない時代が来る

でもそこで諦めず、チャレンジして、その失敗から学んでまた立ち上がって生き抜く人間になってほしい。そのためにも本当の強さや豊かさを知り、自分の力で考えることを学んでほしいと思っています。」

FCIでは野外体験教育、そして環境教育を通して、これからの社会を変えていく“キャプテン”を育成していきます。
ぜひご興味があれば、各種説明会へのご参加もお待ちしています。


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