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地域をフィールドに実践で学ぶ「FC今治高校」が目指すもの【前編】

はじめまして!FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。

FC今治高校 里山校は、サッカー元日本代表監督を務めた岡田武史さんが学園長を務め、2024年4月の開校を目指す愛媛県今治市の私立高校です。

サッカー人材の育成ではなく、これからの世界の歴史を動かし、人類と自然とが共にある そんな地球の未来を切り拓く「ヒストリック・キャプテン」の育成を目指しています。

そのために、今治市というリアルな地域社会をフィールドに、自然環境や暮らし、産業に直に触れて探究し、多様な仲間と学びあう実践型のカリキュラムを展開していきます

自ら動き、考え、違いを受け入れ、仲間とともに社会を変える。FCIではそんな未来を創る学生80名を、第1期生として募集しています。


2023年8月12日(土)、9月2日(土)には、今治市でオープンキャンパスを開催しました。

第2回目のオープンキャンパスでは、これからの時代に求められるコミュニケーション能力に課題意識を持ち、子どもたちの「話す力」の向上に取り組む一般社団法人アルバ・エデュ代表理事の竹内明日香さんをお招きし、岡田武史と共に「これからの世界を生き抜いていく子供たちに必要な教育とは?」をテーマにしたトークセッションを開催しました。
モデレーターは今治出身でもある株式会社SKYAH代表の原 ゆかりさんが務めました。

今回のnoteではトークセッションの内容を再構成して、前後編の前編としてお伝えします。

▼動画はこちらからご視聴ください!


『エラー&ラーン』目指すのはやってみて学ぶ教育

■ジョホールバルでの極度のプレッシャーが、僕の遺伝子にスイッチを入れた

原:今日は岡田さんと竹内さんに「これからの時代に必要な教育」という視点でお話を伺っていきます。まずはそれぞれ、教育の道に進まれたきっかけをお伺いできますか?

岡田:僕が野外体験教育をやろうと思ったきっかけがあります。

41歳の時、当時サッカー日本代表のコーチからいきなり監督になったんですね。それまで監督の経験はなかったんです。それはそれは、ものすごいプレッシャーで。

学校法人今治明徳学園 学園長 岡田武史

1998年、FIFAワールドカップ・フランス大会のアジア最終予選。本戦に出場する代表が決まる最後の試合、イラン代表との一戦。もうとんでもない緊張感の中、試合会場となったマレーシアのジョホールバルから妻に電話して、「明日もし勝てなかったら俺は日本には帰れない」と本気で言ってました。

それを言って数時間後に、ふと「もう いい」と。「俺は明日、急に名将にはなれない」と。俺ができることは今持ってる力を100%出すだけで、それでダメだったら力が足らねえからしょうがない、謝ろうと。日本の国民の皆さん申し訳ございません。でも俺のせいじゃないなこれ、俺を選んだ会長、あいつのせいやと(笑)

こう思った瞬間から完全に開き直って、人にどう思われるとか、自分をよく見せようとかそういう気持ちが本当に少なくなったんですね。怖いものがなくなりました。

ちょうどその頃、生物学者の 村上和雄先生(故人)が、遺伝子にスイッチが入るという話をよくさ れてました。われわれ人間には氷河期や飢餓期越えてきたご先祖様がいて、強い遺伝子をみんな持ってんだけど、こんな便利・快適・安全な社会にいたら遺伝子にスイッチが入ってないそうなんですよ。

僕はジョホルバールのあの瞬間に、遺伝子にスイッチが入ったような感覚がありました。振り返ると、そこから自分の人生が変わり始めた

僕、若くして結婚したんですけど、結婚式の最後に親父がみんなの前で挨拶するんですね。自分の子供が結婚したら最後にこんな人前で話さないかんのか。絶対子供作っちゃいけないなと思ってた、そんな人間だったんです 。それがこうやってね、平気でペラペラ話せるようになった。本当にあそこから自分の人生が変わり始めたんです。

■主体的に動けて多様性を認め合える人材こそ、これからの世の中を生き抜ける

岡田:我々が作ってきた今の社会を見ると、便利・快適・安全に、もっと便利・快適・安全に。一つの公園でケガ人が出たら、全員が使えなくなる。こんなに守られてて、若い人がいつ強くたくましくなっていくんだろう。そう思って、2011年に一般社団法人「オカダ・インスティテュート・ジャパン(OIJ)」を立ち上げて、自然体験学習をベースとした次世代育成事業を始めました。

そうして、野外体験学習をやったり、環境教育をやったりしているうちに、今治に来ることになって。FC今治をやっていたら、たまたま学校法人明徳学園さんと出会って。「あ、ちょうどこういう教育をやらなきゃいけない」と思っていたところに「協力してもらえないか」という話が、いいタイミングで来て。

チャットGPTとかAIが発達してきて、これから論理的思考とか知識よりも体験値、そして直感的に物事にチャレンジしていくことが求められる。
やってみなきゃわかんない。ロールモデルがいない社会が来ます。

僕は40年間、環境問題に取り組んでますけども、閾値を超えた感覚がある。もう元へは戻れない。4月に種を蒔いて、ここで水抜きしたらこう、って過去の経験が通用しない。やってみなきゃ、わかんない時代が来る

でもそこで諦めず、チャレンジして、その失敗から学んでまた立ち上がっていく。そういう人材を育てたいと思ってました。

明徳学園さんと一緒に、新しい教育にチャレンジするんなら、ぜひやろうと。そうして、すずかん先生を筆頭に教育界からもいろんな人が力を貸してくれることになりました。いよいよ、生徒さんを迎えるとなってドキドキしています。

この前、学校にブラっと行ったら「学園長、校則変えてください!」と。「校則の何がダメなの」と。聞いたらスカートを折り曲げちゃいけないんですって。「勝手にせーよ」って言っちゃいました、僕。あ、校長ごめんなさい。
(会場笑い)

これからの社会を生きていくためには、タフなだけじゃダメ。もう「政府が」「お上が」誰かが言ったからじゃない。誰も正解はわかんないけど、自分がやらなきゃいけない。それを主体性っていいます

それと共に、誰も一人ではやっぱり生きていけない。誰かと助け合わなきゃいけないんだけど、みんな一人ひとり違うんですよ。日本の教育っていうのは全員が一緒のところからスタートするんだけど、みんな顔も違う、身長も違う、価値観も違う。その多様性を認め合って、そしてコミュニティを作っていけるような人材でないとダメだと。そういう人材を輩出したいと思って今回立ち上がりました。

ありのままの自分を自己開示できる力

■日本人の「伝える力」に愕然、失敗を恐れるマインドに危機感

竹内:私はかつて銀行員をしていたんですが、ある時、海外のプレゼン大会にお客様と一緒に出場したことがありました。奇しくも岡田さんの転機と同じ、41歳の時のことです。

一般社団法人アルバ・エデュ 代表理事 竹内 明日香 さん
日本興業銀行にて国際営業や審査等に従事ののち独立し、海外投資家向け情報発信や日系企業のプレゼン支援を提供して今日に至る。
2014年、子どもの「話す力」の向上を目指す一般社団法人アルバ・エデュを設立。2023年現在、話す力を育むプログラムを12の自治体に導入、54,000名が受講している。東京大学法学部卒業。公立小元PTA会長。音羽の森オーケストラ「ポコアポコ」主宰。小学校低学年まで海外在住。二男一女の母。
著書に『すべての子どもに「話す力」を』(英治出版)、『思いを伝える「話す力」』(Z会出版より2023年10月出版予定)。

世界各国のチームが一堂に会するプレゼンの場だったんですが、日本チームの出来栄えに愕然としたんです。問題は英語力じゃない。スライド作りも素敵。内容も、よくよく聞いてみると素晴らしいんです。でも聴衆に伝わってないんですよ。

では原因は何なのか。日本人はとにかく失敗をしないようにしようと原稿を持って、それをしっかり正確に読もうとしていました。その光景を目の当たりにして「このままじゃ日本大変だぞ」と思いました。

もともと海外とお仕事することが多く、日頃から「日本って良い商品やサービスがあっても、それがうまく伝わってないよね」と言われることは少なくありませんでした。「アピール力が弱くてね」って言われて、悔しかったんですね。それを象徴するようなプレゼン大会で、あまりにショックでした。

それがきっかけで「話す力」の支援をはじめ、最初は近所の公民館に子どもたちを集めて教え始めました。その後、苦労もしましたが今では学校の授業などにも取り入れていただき、これまでに5万4000人の子どもたちに受講いただいてきました。

■自己効力感と心理的安全性で話す力は伸びる

岡田:やっぱり人前で話すって、なかなかできないじゃないですか最初。変わる瞬間みたいなのがあるんですか。

竹内:最初は独り言を言うので良くて、もう言語化するっていう時点で表現って始まっているんだと思うんですね。

岡田:独り言を。人前じゃなくてね。

竹内:それって学年が小さければ小さいほどしてますよね。そしてだんだん学年が上がるに従って、みんなの目が気になって、話せなくなっていく。その土台にあるのは、おそらく自分が何か言ったら認めてもらえるかもっていう、何かできるかもっていう、自分を知った上で表現できるという自己効力感と、あとはその場に「何を言っても大丈夫」という心理的安全性があることなんですね。

我々は授業の中で自己効力感が芽生えるように、「そもそも世の中って言い出しっぺで変わってきたんだよ。だから言い出しっぺになってね」って。「言い出しっぺになるってすごいことなんだよ」ってみんなで褒めながら、そしてバカなことも言って自己開示もして。

例えばさっきの、結婚式で話すのが嫌でみたいな話をしたら、『なんだ、世界の岡田にもそんなことが』ってみんな思いましたよね。心理的安全性ができたわけです。

岡田:僕本当、小学校の頃は赤面症で、人前で話せなかったんですよ。それ言うと、「嘘つけ」ってみんなに言われるんですけど。本当なんですよ。

人間って変わるもんなんだなって自分で思ってんだけど、やっぱり結局、みんな人にどう思われるかが気になるんですよ。自分をより良く見せたいって思うんですよ。だから苦しいんですよ。

ありのままの自分でいいんだと。安藤 忠雄さんという有名な建築家がおられますが、ある時パネルディスカッションで学生が安藤さんに質問したら、安藤さん「わしそれようわからんわ」とおっしゃって。

僕、「めちゃかっこいい」と思ったんですよ。普通は適当に答えると思うんだけど、それをはっきり、わからないっておっしゃった。だから僕も最近「サッカー俺ようわからんねん」って言うようにしてます。

竹内:FC今治、強くなるかもしれないですね、選手が主体的に考えるようになりますね。

子どものことを見守ってくれる大人の存在が大切

■挫折経験に寄り添ってくれた先生の距離感

原:お2人のお話を伺っていると、プレッシャーだったり、モヤモヤを感じたり。そんな感情の動きがお二人自身に影響を与えて、教育への想いへと繋がってきたんだなあと感じます。

竹内:今日は中学2年・3年の方も多いと思うんですけど、その頃って一番人生でモヤモヤ期。もう、何やってもうまくいかないし、親の言ってることはなんだか腹立つし、なんか目の前は一寸先が闇な感じがして。
今だとチャット GPTとか出てきて、もうこれからホワイトカラーもいらないなんて言われて。

私自身も中学時代、とってもモヤモヤしていました。当時、受験に落ちて落ちて、なんとか入った私立の中高一貫校で水泳部に入りました。部活ではエースだったんですが、肩を壊しちゃって泳げなくなってしまって。みんなのタイムを計ったりしながら、気持ちは荒んで荒んで。勉強でもクラスでビリから2番目になって。

そんな中である時、先生に職員室に呼ばれたんですよ。「お前、何のために生きてんの」って 。「受験の時の成績、そんな悪くなかったんだから、ちょっと頑張ってみたらどうだ。他のことやってみたらどうだ」って言われたのがちょうど中学3年生の時だったんですね。

その時に感じたのが「この先生、自分のことちゃんと見ててくれたんだ」ということでした。とっても感動的だったんですよね。

岡田:子どもが成長するうえでの距離感って大事、そしてものすごく難しいなとつくづく思います。僕は子どもが3人いますけど、自分の子どもは愛情が強くなりすぎちゃって育てられないんですよ。

例えばリフティングを「こうやってやるんだ」って見せてやって、「ほらやれよ」って言って。他の子だったらできなくても「頑張れよ、また明日からやればいいから」って言えるんですよ。自分の子だと何とかやらそうと思って、ムキになって。だから子供が嫌になってサッカーやめるんですね。

子供はね、ちゃんと自分で育っていく力を持ってんですよ。どっちかいうと親だったり、大人側の見守る力が必要だなと。

僕は親父は産婦人科医で2日にいっぺん帰ってこないし、お袋は体が弱くて入院してたんですね。家のお金で僕と姉と二人で生活してるみたいな感じで。学校では弁当持参なんですけど、弁当を作る人がいないから僕だけ外食が認められて、先生の横でラーメン食ってたりしてたんです。父親母親参観とかほとんど来てくれた記憶がないんですよ。それでも隣の家のお母さんに助けられたり、自分の親以外の人が助けて育ててくれたなっていう感覚があります。かつてはそういう社会があったんですね。

ところがそういうものがだんだんなくなってきてる。そういう適度な距離感の関係性を作れる学びの場。そういうものがぜひあった方がいいんじゃないかっていうのは思っています。

竹内:今、うちの子どもたちは高校でサッカーをやっているんですけど、疲労骨折で先日まで3ヶ月離脱していたんです。そんな中で先生から「今はメンタルのトレーニングの時期やぞ」と言われたことをきっかけに、離脱中、体幹と筋トレとメンタルのトレーニングに一生懸命取り組んでいたんです。3ヶ月後、見違えるように別人になってるわけですね。こんなの親が言ったって絶対にやらないわけじゃない ですか。親に代わるような愛情をかけてくれるような大人の存在はとっても大切で、FC今治高校にはたくさんそういう大人たちが集まってくるんだろうなと思います。

■子どもたちの発露を辛抱強く「待つ」教育

原:FC今治高校では、見守ってくれる大人がたくさんいるんだと期待が膨らみます。先生たちは子どもたちにどういう風に接してくれるんでしょうか?

岡田:見守ってはくれるけど、「はい、こうしなさい」「はい、こっち行き なさい」とは言いません

先生方にお願いしてるのは、3つの質問をしてくださいと。
まずは「どうしたの」
答えが返ってきたら「君はどうしたいの」
また返ってきたら「じゃあ先生に何か手伝えることある?」

この3つの質問を繰り返して「こうしなさい」とか「こうすべき」ということは言わず、ずっと見守ります。忍耐強く信じて待ってやる

これについては保護者の方にも、自分の子供を信じて待ってやるっていう事をお願いしなきゃいけないと思ってます。


続く後編ではFC今治高校 里山校のカリキュラムにも触れながら、実際にどのような学びの場が開かれるのか、引き続きトークセッションの内容からお届けします。お楽しみに!

▼後編はこちら

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