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主体性を育む大人の関わり方って?「FC今治高校」が目指す教育の形【後編】

こんにちは、FC今治高校 里山校(通称:FCI)の公式note編集チームです。

FC今治高校 里山校は、サッカー元日本代表監督を務めた岡田武史さんが学園長を務め、2024年4月の開校を目指す愛媛県今治市の私立高校です。

サッカー人材の育成ではなく、これからの世界の歴史を動かし、人類と自然とが共にある そんな地球の未来を切り拓く「ヒストリック・キャプテン」の育成を目指しています。

そのために、今治市というリアルな地域社会をフィールドに、自然環境や暮らし、産業に直に触れて探究し、多様な仲間と学びあう実践型のカリキュラムを展開していきます

自ら動き、考え、違いを受け入れ、仲間とともに社会を変える。FCIではそんな未来を創る学生80名を、第1期生として募集しています。


2023年8月12日(土)、9月2日(土)には、今治市でオープンキャンパスを開催しました。

今回のnoteでは9月2日当日のトークセッションの内容を再構成して、前後編の後編としてお伝えします。

▼前編はこちら



子どもを伸ばすために大事な距離感

■子どもたちの思考を「待つ」教育

:FC今治高校では、先生が「こうしなさい」とか「こうすべき」ということは言わずに見守るということですが、こういった考えは授業の中でも体現されていくのでしょうか?

岡田:もちろんです。例えばFC今治高校のカリキュラムにある『野外体験教育』。これも、例えば道に迷ってても僕らは何も言わないです。ずっと付いていきます。『絶対迷ってるな』と思っても、何時間でも、本人たちが気づいて考えるまで、インストラクターはついていきます。しんどいですよ、間違ってるってわかってんのに付いていくんですから。

子どもたちが思うこと、考えることに付き合う。そんな距離感を作っていきたいなと思ってます。

原:先生たちや周りの大人たちが正解をくれるわけではない。子どもたちの発想を待つ教育なのかなと思うんですけど、子どもの本来の力、潜在能力が「今引き出された」瞬間って、どんな時に、どんな風に起こるんでしょうか。

竹内:私は毎日のように初めましての学校に行って子どもたちに授業を届けていますが、親でもない、学校の先生でもない私たちのような第3の大人が 関わることで、その子を別の角度から見て、褒めてあげたり認めてあげたりする

そして、その子に向き合って対話の中で「この先それを伸ばしていくと将来何に使えるの」とか 「あなたは何がしてみたいの」っていう問いを立てるお手伝いをするんですね。その時に目の奥がキランって光るんですよ。その瞬間がとても、もうたまらなくてですね。「スイッチ入ったな!」っていう感じがするんですよ。

そうすると、子どもたちは最初「正解は何ですか」って一般道を通っていたのが、自分を主語にして語り出すんですね。「自分がこうしたいんだ」「自分がこれは許せないんだ」「これを考えてるんだ」っていう、主語が自分になった瞬間は、本来の力が引き出されたなと感じる瞬間ですね。

岡田:今、ものすごく大切なことを言っていただいたんですけど、子どもたちの存在を認めてやるっていうのは、監督として選手と向き合う時も一緒なんですよ。人間って口先だけでオベンチャラとか言ったってわかるんですよね。存在を認めてあげることが重要なんです。

例えば「この前の練習試合でのあのトラップからのシュート、素晴らしかったな。あれ忘れるなよ」と声をかける。1年間、1回も試合にお前を使わないかもしんないけど、ちゃんと見てるよ。必要としてるよってことを一人一人に伝える。ちょっとした感情の共有、これがものすごく大事。そうしてる時に選手なり子どもがキラッと輝いてくるということなんですね。

■成長には「痛み」がつきもの。乗り越えた時に選手も子どもも変化する

岡田:選手とか子どもが成長する時っていうのは、いろんな困難とか苦難を乗り越えた時なんですよ。筋力つけようと思ったら重いもの持たなきゃいけないでしょ。骨っていうのは重力ってプレッシャーがあるから保ってんですね。重力がなくなったらボロボロになるんですけど、そういう何かに対する反発である程度成長してくるところがあります。

ところが今の社会はそういうプレッシャーがなかなかかけられない。もちろん必ずしもプレッシャーがいいとは限らない。ただそういうものを乗り越えていった時、それも自ら乗り越えていった時っていうのは、成長できる時でもある。そのためのアシストっていうのをしなきゃいけない。でもそこを手を掛けて引っ張り上げちゃうと、やっぱり成長しないんですよね。

僕らがやっている野外体験教育で、ある時5周年記念のプログラムをやろうとなったんです。20泊21日で海遍路/山遍路。海の160キロと山の160キロの道のりを、テント担いで旅するという過酷な企画で。誰が申し込むねんと思ってたら14、5人から申し込みがあって、面接で7人に絞って、行ったんですね。

そしたらめちゃくちゃ人間変わるんですよね。一人不登校の子がいたんですけど、お母さんから連絡あって「学校行く行かないなんて大した問題じゃない。生き続けることが一番大事なんだ」って言って平気で学校に行くようになったって話を聞いたり。

選手も同じです。僕らワールドカップの大会前に勝てなくて、負けて負けて負けて。最後チームキャプテンの川口能活に今、俺はこう考えていると伝えたうえで「選手でミーティングしてくれ」って言って。

ミーティング終わって、「能活、どうだった?」って聞いても「いや、いいミーティングでした」としか言わないんですよ。 後から聞いたら、僕に言うと気が短いから怒り出すと思ったらしいんだけど。

実はそこで選手たちが激論になって、最後に「俺たちヘボなんだから死に物狂いでやるしかねえじゃねえか、やるしかないよ」ってみんなで団結して、それで勝てたんですね。

もう選手が追い詰められて、そっからガッと変わっていくっていうのを見てきてるんでね。やっぱり成長する時のきっかけっていうのは困難とか苦難

でもそこで潰れないように遠巻きでサポートしてやんなきゃいけない。でも手は貸しちゃいけない。さっきの距離感の話なんですけど、まあそういうのはたくさん見てきましたね。

型を破って、型を離れる。成長の段階に合わせた教育が自由な発想を引き出す

■授業の主役は生徒、先生は適度な距離感で見守るサポーター

:子どもたちが大きく育つために、”成長痛”を生む機会みたいなものを、たくさんカリキュラムの中にも仕掛けられていくんだと思いますが、さっきの20日間の海遍路/山遍路をやるわけではなくですよね?

岡田:それやったら来てくれないよ、誰も(笑)

タフな人たちだけがFC今治高校ってわけでは全然なくて、例えばちょっとタフなプログラムでも「弱い子(乗り越えるハードルが高そうな子)をどうするんだ」ということを、自分らのグループで考えていく。

例えば障害者の子がいたら、その子をどうやってみんなで連れて行くんだとか。それを子どもたち同士で、先生がこうしろこうしろって言うんじゃなくて、自分たちで考えていってもらうというのが大事だと思っています。

:おそらくこの学校に来ると、自分のことを自分で考えて、自分で選択して挑戦してみて、時には失敗するかもしれないけど、そこから学んで教訓にしてまた新しいチャレンジをする。それと同時に、周りの子たちもしっかり観察しながら、一緒に何かをやろうとか、今 ここで力になれるところがあるかもしれないっていう居場所の見つけ方をしたりとか、みんなで見守り合いながら、みんなで成長していく。そういう場なのかなと思いました。

■個別最適な教育が子どもの成長を促進

岡田:サッカー教えててもそうなんだけど、僕は『守破離』っていう武道の考え方を大切にしてて。最初は師匠の教えを守って、それを破って、最後は離れていく。こう言うと、ものすごく古くて封建的みたいに聞こえるかもしれないけど、それは「守」ばっかり言うからなんですよ。

「破」と「離」をちゃんと定義したら最高の指導法だと思ってるんです。

例えば帰国子女の子と、生まれも育ちも今治で初めて英語に接する子が一斉に一緒の授業を受けてるのっておかしいでしょ。「守」が必要な人にはティーチングしてあげなきゃいけないし、「破」でいい人にはコーチングでいいんです。そして「離」の人はもう自由にしてればいい。そういう個別最適な 教育っていうのが必要だと思っています。

:みんなが一斉に同じ授業を受けるだけではない、ということなんですね。FC今治高校では独自のカリキュラムも展開されていきますが、実際のゼミではどういうことをしていくのでしょうか。

岡田:例えばヒストリック・キャプテンシップ養成講座では、いろんな講師が関わってくれます。

ヒストリック・キャプテンシップ養成講座
3年間の必修科目として展開予定の授業。さまざまな領域の最先端で活躍する講師陣を迎え、先生でも親でもない「第三の大人」との対話を通じて自分自身の興味関心を発見したり、時に講師をロールモデルにしながら、将来自分がどうありたいか、どうなりたいかを考えたり、アクションに繋げていくことを目指す。

例えば著作家の山口周さん。講座は講師一人につき3時間ありますから、第一週は事前にみんなで山口さんの本を読んでおいて、「この人はどういう考え方で、この人からどういうこと聞きたいだろう」と互いに考えを整理したり、持ち寄って話したりします。第二週には実際に山口さんに講義をしてもらって、直接対話したり、ディスカッションします。そして第三週には、今度は学生がグループ別に山口さんにプレゼンをします。「山口周さんを調べて、ディスカッションして、私たちはこう考えました」と発表をすると。

この3週間を1セットとして、次の講師にも繰り返していきます。
こうやって大人たちとの対話を通じて、自分が何に興味があって、何に心が動くかということを試していく

そんな中でコネクションができて、探究学習の相談とか質問とか、そういう関係性も作っていけたらと思っています。

【参加者からの質問タイム】

■親としての子どもへの関わり方について

参加者:子どもが困難に向かっている時の見守りの仕方について、お伺いです。親であるとどうしても手を出したくなるんですよね。息子がバスケをやっていて、私も昔バスケやってたんでどうしても教えたくなるのをグッと我慢しながらやってはいるんですけど、どうしても言いたくなる。そういう時に頑張るには、何かいい方法ありますか?

岡田:僕はそれできないんだから(笑)こうやったらできるじゃん、って言いたくなるんですよね。

僕はそれで子どもがサッカーやめちゃったから俺のせいだなと思って、そこからは教えないようにしてます。聞いてきたら、「これこうだ、こうやったらどう」って、一緒にボール蹴ろうかとかって言うと僕ムキになっちゃうから、あんまりそういうのをしなくなりましたね。

竹内:とにかく背中で見せようかなと私は思っていて、真面目に仕事をしている、ミーティングも一生懸命頑張ってする、誰よりも朝早く起きて料理をし、本を読みっていう姿を見せて日々生きているんだけど、どう受け取ってくれているかな(笑)

岡田:何をしろって言うんじゃなくてね。

竹内:話す力じゃないですね。

岡田:全然違うじゃないですか(笑)

(一同笑い)

竹内:ほかにも親が一番バカになることをやろうと思って、東京から鹿児島まで突然思い立って運転して行っちゃうとか、マラソン走るわとか、筋トレ頑張るから急にジムに行くとか、とにかく普段の文脈と違うことをして『常識の殻を破ってあげる』っていう背中を見せようとはしています。

:なるほど、型を破っていく背中を見せる

岡田:もう十分やってるかもしれないな、それは。

:学校やり始めましたもんね。

(一同笑い)

■「話す力」を引き出す、「聞く力」の大切さ

:私もミニバスから高校までずっとバスケをやっていて、1個下の妹もやってたんですね。ただ妹が当時なかなかシュートが決まらなかったんですね。そんな妹と父親の会話がすごい印象に残っていて。

父親が「今日シュート決められたか。」「いや、決められんかった」って妹がシュンとしてるんですよ。そしたら「じゃあお前、シュートにつながるパスはできたか」って。”できた”って肯定できるような発言を引き出す質問をずっとしてたんです。

今思うと、どこで学んだんやろか、と思ったりするんですが、今考えるとあれは「できたよ」っていう言葉を引き出そうとしてたコミュニケーションだったんだなって、今日の話で思い出しました。

岡田:お父さんは、妹さんにはするけど、あなたにはしなかったわけね(笑)

:私は勝手にシュートするから、もう自分でやりなさいと(笑)

夕食の時には必ず「今日、学校で何勉強してきたんぞ」って聞かれるんですよ。だから(授業も学校生活も)受け身ではいられないんですよね。聞いてないと話せない、説明ができないので。

私は妹の分も喋ろうとして、いつも怒られてたんですけど(笑)なんかそういう風に、ちゃんと一人一人に聞く、みたいなことをやってたかもなと。

FC今治高校がやろうとしてることに近いかもって、ちょっと思いました。大人も変わっていくことが求められるかもしれないですね。

岡田:要は子どもの話す力を引き出すためには、大人に聞く力がないといけないってことですね。

■対談を終えての印象を、結びに変えて

参加者: 今日この場でお二人でお話して、お互いにどんなイメージ持ったのかというのを、ぜひ僕らに教えてもらえたらなと思いました。

竹内:いやもう、最初は緊張しましたよ。だってテレビでしかもちろん見たことなくて、お父さんもお母さんも同じ世代じゃないかなと思うんですけど、”伝説の岡ちゃん”ですよ。もう心臓バクバクしながら、でもお話したらすごい普通の人間なんだって(笑)
自分の苦手だったこととかもお話くださって、この場の心理的安全性が担保されて助かりました。でもとっても緊張しました。

岡田:いやそうは見えなかったですけど(笑)
僕は最初、本を読ませていただいて、根本のところが非常に似てるなと。

今日その方に会えるということで楽しみにしてきて、そしたらそのまま、おきれいな方で。綺麗なお二人をこんなブ男が横に座るの嫌やなあと思って…

:ちょっとしどろもどろになり始めましたね。

岡田:ともかく、お会いしてもスムーズに会話をさせてもらえたのは、ベースの考え方が似てるからかなと。原さんもそう。

最近はもうじいさんなんで、緊張するってことがあんまりなくなってですね。でもこれから試合っていう時はドキドキしちゃって。その時だけは緊張するんですけど、それ以外はもう人にどう思われるとかであんまりドキドキはしなくなったんで、今日は楽しかったですね。

:お二人が初めましてなんだということは聞きつつも、本当に初めましてなのかなと打ち合わせの時からもちょっと感じながらという空気感のお二人でした。

岡田さん、よく朝スタジアムで草抜きされてたりとか、水やりされてたりとか、里山サロンってカフェがあるんですけど、そこでテーブル拭いてらっしゃったりとかして皆さんびっくりされるんですよね。

岡田:メイちゃんっていうヤギも飼ってて、この子が好きな草を僕よくわかってて。それを朝刈って持って行って食べさせて、散歩したりとかやってます。

:すでに明徳高校の生徒さんが「校則変えてくれ」って直談判できるぐらいの空気感で付き合ってくださってるって事だと思うので、皆さんもFC今治高校に入ってやりたいことがあったら、どんどん学園長にお話いただければ!

岡田:ちょっと校長がいるから、校長が(笑)

:受け止める大人がたくさんいますよ、ということですね。

(完)


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